新年 特別対談(2020年):KOKI PRESS

新年 特別対談(2020年)

工機ホールディングス株式会社・2020年新年特別対談

現場の省力化の武器となる“コードレス工具”で
業界に革命を起こしたマルチボルト

明けましておめでとうございます。
皆様、新しい年を健やかにお迎えのことと心からお慶び申し上げます。旧年中は弊社製品の販売に格別なるご支援とご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
年頭にあたり、マルチボルトの優位性や今後の製品開発の方向性につきまして、代表取締役 社長執行役員 森澤篤と上席執行役員 研究開発本部長 高野信宏の対談という形式でお届けしてまいります。

ますます市場の注目度が高まっているマルチボルト。その技術的な優位性、開発中のエピソードなどをお聞かせください。

森澤

電動工具の世界では急速にコードレス化が進んでいます。しかし18Vでは、AC工具のパワー、スピード、トルクを実現するには壁がありました。取り回し、使い勝手は良いけど、やはりパワーはAC工具には敵わない、と。そこを解決する技術としてマルチボルトが登場したわけです。私が最初に聞いてすごいと思ったのは、コードレスでAC工具並みのパワーやスピードを実現しながら、既存の18Vも無駄にせずに併用できる。よくそんなことができたな、と思いましたね。

高野

コードレス工具自体は30年以上開発してきて、当初からAC工具をコードレス工具に置き換えたいという目標はありました。ただ当時のコードレスはパワーがありませんから、プロのユーザー様はAC工具をメインに使っておられた。その中で、電池もどんどん進化して2005年頃からリチウムイオン電池になり、18Vもかなり普及してきました。今後さらに弊社の製品を使っていただくためには、AC工具並みのパワーにしなければいけない。一方で電池は18Vと同サイズでないと取り回し面で不便になります。研究開発を続けてきて、2年前にようやく技術の進歩やセルの配列を変更することでAC工具並みの大きなパワーを実現しました。もちろん、電池だけではダメで、モーターやメカ、耐久性も見直してできあがったのがマルチボルトシリーズです。当然、他社もハイパワーのコードレスを作るために研究開発をされていたようですが、我々が関連特許を持っていてノウハウもあったため、いち早く製品化することができました。

森澤

技術的な優位点があったわけですね。マルチボルトはフル充電すると36Vを超えるとも聞いているのですが。

高野

はい。36V電池と謳っていますが、実際の電圧は、フル充電時に約41Vになります。

36Vと18Vとの互換性についてはどうですか。

高野

実は開発当初は36Vだけで発売しようと考えていました。ただいろいろな部門と議論する際に、18Vも使えた方が良いですよねと、サラッと発言したのです。そうしたら、すごい賛同がありまして。よし、絶対にやってやろうと。具現化する方法が思いつかずに試行錯誤を続けていたのですが、若手エンジニアチームがひらめいて「高野さん、こうすれば36Vと18Vをつなげますよ」と言ってきたのです。そのひらめきを聞いた時は、みんなで喜びましたね。

森澤

なるほど。ひらめきは、コロンブスの卵に近い感じですか。

高野

36Vと18Vのつなぎ方を変える。まさにコロンブスの卵です。これならいけるだろうと、発売する前に開発部門で宴会を開きました(笑)。

森澤

それほど手ごたえがあったと(笑)。今、36Vが39モデルあって、同じ電池が使える18Vが75モデルあります。ひとつの電池プラットフォームを持っていれば、パワフルな仕事から気軽に使えるものまで、合計で114モデル(2019年12月現在)の選択肢があるわけですから、ユーザー様にとってもメリットだと思いますね。

HiKOKI(ハイコーキ)の電池は長寿命だと聞きます。何か秘密があるのですか。

森澤

セル自体はどこのメーカーも社外から調達します。ただ電池の制御回路部や工具本体・充電器の設計は社内で行っているため、ノウハウが蓄積している。意外と電池の設計を内製している工具メーカーは少ないんですよね。また2年保証をつけています。これは他社ではなかなか真似できないことじゃないでしょうか。

高野

そう思います。電池の寿命については、以前からユーザー様や販売店様に評価をいただいていました。それをもっとアピールできる方法はないかと、2年保証を始めたのです。海外では電池保証をしている会社もありましたが、国内では我々が初めて。評判も良く、電池に対する自信も示すことができて良かったなと思います。

森澤

現場の職人さんの話では、電池は毎年取り替えないといけないほど消耗すると聞きます。ところが弊社の電池なら2年間は大丈夫だという保証がついてくる。電池を買い替える費用が抑えられるわけですから、ユーザー様にもしっかり伝えていきたいですね。

今後の開発の方向性についてお聞かせください。 

高野

マルチボルトの発売から2年が経ち、主要な製品ラインアップを揃え、ファーストステージが終わったと感じています。では次のセカンドステージには何をやっていくのか。日本では作業者の高年齢化が進み、人数自体も減っています。こうした環境を考慮し、より生産性を高められる36V以外の軽量マルチボルトも視野に入れての製品ラインアップを揃えていきたい。森澤社長が現場に行きなさいと、よく言われていますが、今年はこれまで以上に現場に行く回数を増やして、よく現場を観察して、作業効率を高める製品を開発したいと思います。販売店様からもマルチボルトにして欲しい製品の要望をもらっていますし、すでに順調に動き出している案件もあります。

森澤

我々は工具メーカーですから、工具を使うシーンでどういう付加価値を提供できるかが重要です。パワーやスピードといったニーズはもちろんあると思いますが、直接的な作業ではないところ、準備や片付け、工具の手入れなど。そういったところを含めて、ユーザー様の仕事や生活をトータルでより良くする視点が大切だと思います。個人的にはラジオなどの直接仕事には関係ない周辺機器でも36Vで設計しておけば、休憩中にも使えて電池の付加価値が高まると感じています。いずれにしても、ユーザー様をもっと深く理解することで、HiKOKI(ハイコーキ)が役に立てるシーンも広がっていくのではないでしょうか。そのためには、やはり現場に行かないといけません。

高野

当初36Vは18Vの延長で使われるだろうと考えていたんです。ところが実際に現場を訪れると、コードレスセーバソーをメイン工具として解体作業を行うなど、今までコードレスではやらなかった作業をされていました。やはり現場に行かないとわからないことは、いろいろあります。

森澤

ユーザー様が使い方をクリエイティブに考えてくれるわけですね。工場系のお客様にも同じようなことが言えます。工場内というのは、コンセントにつながっていても問題ないだろうと私も思っていました。でも実際に鉄工所さんに行ってみると、床の上にたくさんのコードがあって、引っかかったりして危険なわけです。コードレスなら、こうしたリスクを回避することができます。まだまだ知らなかった付加価値があると感じました。

高野

今後、電池がさらに進化していくと、コードレス工具の方がAC工具よりもパワーがある時代が来ると思います。我々としても、どういう工具が登場してくるか楽しみなところです。

次のステップでは、ユーザー様自身も気づいていなかったものを発見していくことが必要かと思います。
その点に関してはどうですか。

森澤

さらに付加価値の高い製品を作っていく上で、ユーザー様をどう理解していくかが重要です。ユーザー様が、自ら本当に必要としているものを口で表現するのはなかなか難しい。なぜなら、今ある工具が多少使いにくくても、上手く使いこなしていらっしゃるためです。コードレス工具の電池が1年で使えなくなってしまっても、「そんなものだろう」と暗黙のうちに妥協されてしまいます。しかし暗黙の不満や妥協は、観察することで見つけることが可能です。だからこそ、セールスエンジニアだけでなく、開発部門や間接部門のスタッフもどんどん現場に行って、観察して、その上でどのような製品がお役に立てるのかディスカッションするのが大事だと思います。

高野

気づくことが重要で、気づきさえすれば、製品化までは難しくない。そこに気づくことが一番難しいと私は思います。そこは我々だけではなく、販売店様やユーザー様と一緒に考えていければと考えています。

森澤

その通りで、販売店様やユーザー様のご意見をしっかり伺って、より役に立つもの、本当に満足されるものを提供していきたいと思います。

本年も弊社全社員一丸となり、販売店様のご期待にお応えすべく、開発、製造、販売、サービスに、スピード感を持って取り組んでまいります。
何卒皆様のご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。